夏の練習前、天気予報の最高気温を見て「今日は走れるかな」と考える人は多いと思います。ただ、気温だけで決めるのは少し危険です。
同じ気温でも、湿度や日差し、地面や建物から受ける熱によって、身体への負担はかなり変わります。そこで確認したいのが、暑さ指数(WBGT)です。
環境省によると、WBGTは人体と外気との熱のやりとりに着目し、湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温を取り入れた指標です。日本スポーツ協会(JSPO)も、熱中症を予防するための温度指標としてWBGTを示しています。
難しい数値に見えるかもしれませんが、使い方はシンプルです。走る場所と時間帯に近いWBGTを確認し、その日のメニューをそのまま行うのか、軽くするのか、休むのかを考えます。
夏は予定を守り切ることより、条件に合わせて予定を変えられることのほうが大切です。
ここで紹介するのは、環境省とJSPOが公開している指針を、市民ランナーの練習判断に置き換えたものです。医療上の診断や治療を行うものではありません。体調に異変があるときは運動を中止し、必要に応じて医療機関や公的な相談先を利用してください。
気温が同じでも、走る条件は同じではない
JSPOは、暑熱環境に関わる因子として気温、湿度、輻射熱、気流を挙げています。WBGTは湿球温度、黒球温度、乾球温度から算出され、これらの因子を反映します。
たとえば、昨日より最高気温が低くても、湿度が高ければ身体の熱は逃げにくくなります。日が落ちても、路面や建物に熱が残っていることがあります。
そのため、「朝だから大丈夫」「夜なら走れる」とは言い切れません。朝や夜へずらすのは暑さを避ける方法のひとつですが、時間を変えたら、その時間と場所のWBGTをもう一度見ます。自分の体調も一緒に確認してください。
WBGTを見て、練習をどう変えるか
公的指針には、WBGTごとの運動の目安があります。ここは自己流で緩めず、まず指針をそのまま受け止めるところです。そのうえで、普段のジョグやポイント練習に置き換えて考えてみます。
WBGT 31以上なら、運動は原則中止
公的指針は「運動は原則中止」です。特別の場合以外は、運動を中止するよう示されています。
この日に予定していたロング走、ペース走、インターバル、ジョグを、そのまま屋外で始めるのはやめます。「短くすればいけるだろう」と走り出すのではなく、休養へ切り替えるか、暑熱環境を避けられる別の方法を検討します。
場所を変えるなら、移動先の環境や利用条件も改めて確かめてください。
走らないと不安になる日もあるかもしれません。ただ、この数値で一本の練習を押し通すことと、長く走り続けることは別です。ここでは原則中止を優先します。
WBGT 28以上31未満なら、激しい運動や持久走を避ける
この区分は「厳重警戒(激しい運動は中止)」です。公的指針では、激しい運動や持久走など、体温が上がりやすい運動を避けるよう示されています。
加えて、次の対応も示されています。
- 10〜20分おきに休憩する
- 水分・塩分を補給する
- 暑さに弱い人は、運動を軽減または中止する
市民ランナーにとっては、ポイント練習やロング走を予定どおり消化する日ではありません。まず中止を候補に置きます。
実施する場合も、「距離だけは予定どおり」と考えず、運動の種類と強度を公的指針の範囲に合わせて見直してください。暑い日に無理に距離を積み、その後の練習まで崩れては意味がありません。
WBGT 25以上28未満なら、休憩を最初から入れておく
公的指針は「警戒(積極的に休憩)」です。適宜、水分・塩分を補給し、激しい運動では30分おきくらいに休憩するよう示されています。
この区分を「普通に走ってよい条件」と受け取らないでください。休憩は疲れてから考えるのではなく、最初から練習の中に入れておきます。
組み替えの例は次のとおりです。
- 長い一本道ではなく、周回ごとに状態を確認できるコースにする
- 予定していた強度を落とす
- 途中で終えやすく、水分を取れる場所を選ぶ
ただし、これらは公的指針を個人の練習へ当てはめるための例です。「こうすれば安全に実施できる」と保証する基準ではありません。
WBGT 21以上25未満でも、水分・塩分を意識する
公的指針では「注意(積極的に水分補給)」とされ、熱中症の兆候に注意しながら、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給するよう示されています。
数値が低い側にあるからといって、確認を省いてよいわけではありません。走り始める前、走っている途中、走り終える頃で条件は変わるため、最新の情報を見てください。
公的指針には、市民マラソンなどではWBGT 21未満でも熱中症が発生するため、注意が必要だと記載されています。
図は横にスクロールして拡大表示できます。
練習前に決めておきたいこと
夏の練習は、次の順番で考えると迷いにくくなります。
- 走る場所と時間帯に近いWBGTを確認する
最高気温だけで済ませず、環境省の暑さ指数情報などを見ます。 - 予定している運動の種類と強度を確認する
同じランニングでも、ジョグとペース走、インターバル、ロング走では身体への負荷が違います。公的指針が「激しい運動」「持久走」を避けるよう示す区分なら、予定どおり行わない判断が必要です。 - 公的指針を先に当てはめる
自分の体調や予定より先に、該当する区分を確認します。 - 体調と暑さへの慣れ方を重ねる
数値が境界より下でも、いつもと体調が違うなら実施を優先しません。公的指針でも、暑さに弱い人は運動を軽減または中止するよう示されています。 - 走り始めた後でも変えられる計画にする
短い周回にする、途中で離脱しやすいコースを選ぶ、休憩できる場所を確保するなど、距離の完了だけを前提にしないことが大切です。
公的指針の要点は、次のとおりです。
| WBGT | 運動指針の要点 |
|---|---|
| 31以上 | 運動を原則中止 |
| 28以上31未満 | 激しい運動や持久走を避け、10〜20分おきに休憩して水分・塩分を補給 |
| 25以上28未満 | 積極的に休憩し、激しい運動では30分おきくらいに休憩 |
| 21以上25未満 | 積極的に水分・塩分を補給 |
途中で短縮したり終了したりしても、失敗ではありません。その日の条件に合わせた判断です。
この手順を踏んでも、「この条件なら安全」と断定はできません。公的指針を確認し、走らない選択も含めて考えるための順番です。
夏に起こりやすい判断のずれ
朝へ移しただけで安心する
朝に変えたら、変更後の時間と場所のWBGTを見て、公的指針と体調を重ねて判断します。
水分を持てば予定どおり走れると考える
水分・塩分の補給はもちろん大切です。ただし、WBGT 31以上の「運動は原則中止」や、28以上31未満の「激しい運動は中止」という判断を、水分の携行で置き換えることはできません。
週間距離の不足分を暑い日に詰め込む
週間距離は目標であって、当日の公的指針より優先する条件ではありません。単純に翌日へ距離を移せば、ポイント練習と回復、ロング走の並びが崩れることもあります。
走り始めたらメニューを変えない
夏は、最初に決めた内容を最後まで守るより、途中で条件と体調を見直せることのほうが大切です。中止、短縮、強度を下げる、休憩を増やすといった選択肢を、走る前から用意しておきます。
一日ではなく、週全体を組み直す
WBGTを見て当日の練習を中止しても、同じメニューを翌日にそのまま移すと、ポイント練習、回復、ロング走の順番が崩れる場合があります。夏は「予定どおり走れたか」だけではなく、週の目的を守れているかで考えます。
週の目的が持久力づくりなら、一日に距離を詰め込まず、実施できる環境を探しながら全体を配置し直します。回復が目的の日に、暑い中で距離を稼ぐのは目的と合いません。
ここで書いているのは練習設計の考え方です。実際に何をどれだけ行うかは、今の走力、体調、環境によって変わります。
自分の練習が「伸び悩み・故障・後半失速」のどこで詰まりやすいか整理したい方は、無料30秒リスクチェックを使ってみてください。夏の週間設計を体系的に学びたい方は、Runner's Base Universityでも練習の組み立て方を確認できます。
次の練習前には、次の3つをメモしてみてください。
- 走る場所と時間帯のWBGT
- 予定している運動の種類と強度
- 中止・短縮・休憩追加へ切り替える条件
全部をきれいに管理する必要はありません。この3つが手元にあるだけでも、走り出す前の判断はしやすくなります。
当日の数値を見るだけでなく、週間メニュー全体の組み直し方を学びたい方は、Runner's Base Universityへ。一人で判断し続けることに迷いがある方は、Community入会相談から、自分に合う支援方法を相談してください。
参考資料
-
環境省「暑さ指数(WBGT)とは?」
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php -
公益財団法人日本スポーツ協会「熱中症予防のための運動指針」
https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid922.html